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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)2141号 判決 1992年11月09日

原告

座馬隆明

小澤隆幸

右両名訴訟代理人弁護士

堀井敏彦

被告

A

B

右両名訴訟代理人弁護士

八木眞

被告

C

D

右両名訴訟代理人弁護士

小島高志

岩月浩二

右両名訴訟復代理人弁護士

小野万理子

被告

E

主文

一  被告Eは、原告座馬隆明に対し、金五三七万一四〇〇円及びこれに対する平成二年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Eは、原告小澤隆幸に対し、金七一三万円並びに内金二七五万円に対する平成元年一月一九日から、内金一三三万円に対する平成元年一二月一八日から及び内金三〇五万円に対する平成二年二月二二日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告Eに対するその余の請求、及びその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告らに生じた費用の各二分の一と被告Eに生じた費用を被告Eの負担とし、原告座馬隆明に生じたその余の費用と被告A及び同Bに生じた費用を原告座馬隆明の負担とし、原告小澤隆幸に生じたその余の費用と被告Dに生じた費用を原告小澤隆幸の負担とし、被告Cに生じた費用を原告らの負担とする。

五  この判決は、一項及び二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告A、同B、同C及び同Eは、各自、原告座馬隆明に対し、金一〇七四万二八〇〇円及びこれに対する平成二年四月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告C、同D及び同Eは、各自、原告小澤隆幸に対し、金一四二六万円並びに内金五五〇万円に対する平成元年一月一九日から、内金二六六万円に対する平成元年一二月一八日から、内金六一〇万円に対する平成二年二月二二日からいずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告A及び同B

(一) 原告座馬隆明の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告座馬隆明の負担とする。

2  被告C

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

3  被告D

(一) 原告小澤隆幸の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告小澤隆幸の負担とする。

第二  請求原因

一  当事者

1  原告両名は、いずれも昭和五八年からそれぞれの肩書住所地において歯科医院を開業している歯科医師であり、開業以来、訴外株式会社堀歯科産業(以下「訴外会社」という。)から継続して歯科用の材料や技工品を購入してきた。

2  訴外会社は、昭和五一年五月にそれまで被告A(以下「被告A」という。)の個人経営の商店であったA歯科商店を株式会社に法人成りさせて設立された会社であったが、昭和六三年五月一六日に名古屋地方裁判所で破産宣告を受け倒産した。

3  被告Aは、訴外会社の設立時から昭和六一年五月一日までの代表取締役であって、被告B(以下「被告B」という。)も同じく設立時から昭和六一年五月までその取締役であり、いずれもその旨の商業登記がなされていた。

被告E(以下「被告E」という。)は、訴外会社の設立時から昭和六一年五月一日まではその取締役、これ以降は代表取締役であった。

なお、被告Aは、被告B及び同Eの父親である。

4  被告C(以下「被告C」という。)は、昭和五七年一月に訴外会社に入社し、昭和六一年五月一日まではその営業部次長であり、これ以降は取締役であって、訴外会社の番頭的地位にあった。

5  被告D(以下「被告D」という。)は、訴外会社の秘書であった。

二  被告らの不法行為

1  原告座馬隆明のリース契約締結

(一) 昭和六一年一月中旬、原告座馬隆明(以下「原告座馬」という。)は、被告E及び同Cの訪問を受け、被告Cから「被告Eが近々社長になるので売上げを伸ばしたい。ついては先生には一切迷惑はかけず、節税にもなるから、リース契約に名前を貸してほしい。支払いは全部当社で責任を持つので先生の負担はない。書類を作るが形だけで何も心配することはない。もちろん、物件の引渡しはない。」等と告げられてリース契約の名義借りを頼まれ、被告Cの右言葉を信じてこれを承諾した。

(二) 昭和六一年二月二五日、原告座馬は、自宅を訪れた被告E及び訴外日医リースの社員に指示され、リース物件についての説明を受けず、契約内容を確認することもなしに、呈示された契約書類に署名押印した。原告座馬は、その後、訴外日医リースにリース物件の借受証を送付した。

(三) 原告座馬が訴外日医リースに支払うべき右契約のリース料は、原告座馬と被告Eとの間において、二分の一は訴外会社から原告座馬の預金口座に送金され、残りの二分の一は被告Cが直接原告座馬方に持参することになっていたので、原告座馬は、昭和六三年一月分までのリース料の負担はなかったが、同年二月分以降の右送金及び現金持参が中断した。

2  原告小澤隆幸のリース契約締結

(一) 昭和六二年二月中旬、原告小澤隆幸(以下「原告小澤」という。)は、被告Cから電話で「実績を伸ばしたいのでリースをやってほしい。リースといっても機械は納入せず、先生に一切迷惑をかけないし、節税にもなる。名前を借りるだけの形式的なことなので協力してほしい。」旨告げられて、リース契約の名義借りを頼まれ、被告Cの右言葉を信じてこれを承諾した。

(二) 昭和六二年三月一三日、原告小澤は、被告Cから「今日社長がリースの件で伺うのでよろしく。」との電話連絡を受け、その後一人で原告小澤方を訪問した被告Eに指示されるまま、訴外三洋電機クレジットとのリース契約の書類に署名押印した。

(三) 昭和六二年四月八日、原告小澤は、自宅において、訪れた被告E、同D及び訴外日立クレジットの社員らの指示を受け、前同様、訴外日立クレジットとのリース契約の書類に署名押印した。

(四) 昭和六二年四月一三日、原告小澤は、被告E、同D及び訴外名古屋リースの社員らの訪問を受け、前同様、右被告らに指示されるまま訴外名古屋リースとのリース契約の書類に署名押印した。

(五) 右(二)ないし(四)の各リース契約の契約書に署名押印の際、原告小澤は、いずれもリース契約の仕組みの説明は受けておらず、契約内容の確認等もしていない。

(六) 原告小澤は、右各契約後、各リース会社宛にそれぞれ物件の借受証を送付した。

(七) 原告小澤が右各契約により各リース会社に支払うべきリース料は、昭和六二年五月までのそれは、被告Eが原告小澤方に直接持参し、同年六月分以降のそれは、毎月のリース料に見合う額面の訴外会社振出の約束手形を被告Eが持参していたので、原告小澤がリース料を負担することはなかったけれども、昭和六三年二月分以降のリース料に相当する各約束手形の取立てができなくなった。

3  被告E、同C及び同Dの故意

(一) 右1、2の各リース契約は、いわゆる空リースである。即ち、サプライヤーである訴外会社は、ユーザーである原告らにリース物件を納入しないのに、原告らをしてリース会社宛に物件の借受証を送付させることによって、リース会社からリース物件の代金の支払を受けるというものであり、この場合、訴外会社はリース料を原告らに代って支払うことにはなるが、あたかも訴外会社がリース会社から融資を受けたのと同様の結果になるものである。

(二) しかしながら、右の如き空リースにあっては、サプライヤーがもしも倒産する等してリース料をユーザーに代って支払うことができなくなると、ユーザーが残存リース料の支払いを余儀なくされ、ユーザーは残存リース料と同額の損害を被ることになる。

(三) 被告E、同C及び同Dらは、原告らに前示1、2記載の各リース契約の契約書に署名押印させるに際し原告らが右(一)、(二)記載のリース契約の仕組みを知らないことに乗じ、これらのリース契約がいわゆる空リースであって、訴外会社の資金繰りを目的としていること及び訴外会社が倒産する等してリース料の支払いができなくなると、残存リース料は、原告らが支払うことになることをあえて隠し、原告らをして、単に名前を貸すだけのもので何ら負担を伴わないものであると誤信させた上、右各リース契約を締結させたものであるから、民法七〇九条、七一九条に基づき、これによって原告らの被った損害を賠償する責任がある。

4  被告A、同Bの過失

(一) 昭和六一年一ないし二月当時、被告Aは訴外会社の代表取締役であり、被告Bは取締役であった。

(二) 被告Eは右同時期に取締役であり、被告Cはその頃の営業部次長であったところ、同被告らは、前示1及び3記載のとおり、原告座馬に対して不法行為をなした。

(三) 被告Aは、右被告らによる前記不法行為を阻止することなく、もって、被告Eに対する取締役相互間の監視義務を、被告Cに対する監督義務を、それぞれ怠ったものであり、また、被告Bは、被告Aが右各義務を怠ることを阻止することを怠り、もって、取締役相互間の監視義務を怠ったものであるから、被告A、同Bらは、商法二六六条の三及び民法七一五条二項に基づき、原告座馬が被った損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  原告座馬

金一〇七四万二八〇〇円

原告座馬は、昭和六三年四月以降の残存リース料の支払いについて訴外日医リースと裁判上の和解をし、九八五万円を和解金として平成二年四月二四日に支払った外に、昭和六三年二月及び三月分のリース料として四九万二八〇〇円をも支払った。更に、原告座馬は、本件訴訟提起を原告訴訟代理人に委任し、四〇万円の報酬の支払いを約した。これらを合計すると一〇七四万二八〇〇円となり、原告座馬は同額の損害を被ったことになる。

2  原告小澤

金一四二六万円

原告小澤は、残存リース料の支払いについて訴外名古屋リース、同日立クレジット及び同三菱電機クレジットとそれぞれ裁判上の和解をし、訴外名古屋リースに対し平成元年一月一九日に五五〇万円を、訴外日立クレジットに対して平成元年一二月一八日に二六六万円を、訴外三菱電機クレジットに対して平成二年二月二二日に五五〇万円をそれぞれ和解金として支払った。更に、原告小澤は、本件訴訟提起を原告訴訟代理人に委任し、六〇万円の報酬の支払いを約した。これらを合計すると一四二六万円となり、原告小澤は同額の損害を被ったことになる。

四  よって、原告座馬は、被告A、同B、同E及び同Cに対し、各自、一〇七四万二八〇〇万円及びこれに対する訴外日医リースへの和解金を支払った日である平成二年四月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告小澤は、被告E、同C及び同Dに対し、各自、一四二六万円並びに内五五〇万円に対する訴外名古屋リースへ和解金を支払った日である平成元年一月一九日から、内二六六万円に対する訴外日立クレジットへ和解金を支払った日である平成元年一二月一八日から、内六一〇万円(弁護士費用を含む)に対する訴外三菱電機クレジットへ和解金を支払った日である平成二年二月二二日からいずれも支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三  請求原因に対する被告A及び同Bの認否及び抗弁

一  請求原因一の事実の認否

1  同1の事実中、原告座馬に関する部分は認め、その余の事実は否認ないし不知。

2  同2の事実中、訴外会社の破産宣告、倒産の事実は不知、その余の事実は認める。

3  同3の事実中、登記簿上、昭和六一年五月まで被告Aが代表取締役に、被告Bが取締役にそれぞれ登記されていたことは認めるが、同被告らが現実に代表取締役ないし取締役の地位にあったことは否認する。その余の事実は認める。

4  同4の事実は認めるが、被告Cが現実に取締役になったのは昭和六一年一月の時点である。

二  請求原因二の事実の認否

1  同1及び3の各事実は全て不知。

2  同4の事実は否認する。

<省略>、昭和六一年二月当時、被告A及び同Bは取締役を退任しているから、取締役の負担すべき義務の違反を論ずる前提がないし、仮に右義務ありとしても、原告らも空リースであることを承知の上で、契約を締結していることからして、被告Aが監督義務及び監視義務を尽くすべき作為可能性がなく、また、被告Bについて監視義務違反を論ずる余地もない。

三  請求原因三の事実の認否

同1の事実は不知。

四  抗弁

1  未登記事項についての悪意

被告A及び同Bは、昭和六一年一月に訴外会社の取締役を退任したが、原告座馬は、同年二月のリース契約締結当時この事実を知っていた。

2  権利濫用

原告座馬は、本件リース契約において、物件が納入されないこと、リース料が経費として処理されるので節税となることを承知の上で契約書に署名押印したのだから、空リースの実行に加功しているというべきである。にもかかわらず、被告A及び同Bに対して損害賠償を請求するのは、権利濫用と評価すべきものである。

第四  請求原因に対する被告C及び同Dの認否及び抗弁

一  請求原因一の事実の認否

1  同1及び2の事実は認める。

2  同4の事実中、被告Cが番頭的地位にあったことは否認する。

<省略>

3  同5は認める。

二  請求原因二の事実の認否

1(一)  同1(一)の事実は否認する。

<省略>

(二)  同1(二)の事実は不知。

(三)  同1(三)の事実中、昭和六三年二月分以降の送金等がなされていないことは認め、その余は不知。

2(一)  同2(一)の事実は否認する。

(二)  同2(二)の事実中、被告Cが原告小澤に電話したことは否認し、その余は不知。

(三)  同2(三)の事実中、被告Dが原告小澤方を訪問したことは認める。<省略>

(四)  同2(四)ないし(六)の各事実は認める。

(五)  同2(七)の事実中、昭和六三年二月分以降は手形金の取立てができなくなったことは認め、その余は不知。

3(一)  同3(一)及び(二)の各事実は不知。

(二)  同3(三)の事実は否認する。原告らは、契約時に、物件の納入のないこと、法律上はリース料の支払義務を自らが負担していること及びリース料が訴外会社から立替払いされることを知っており、空リース契約の危険性を認識していた。

三  請求原因三の事実の認否

同2の事実は不知。

四  抗弁

原告らの本件リース契約締結は、リース会社に対する詐欺的行為であるとともに、所得税・住民税等の脱税的行為でもあるところ、原告らの本件請求はかかる自らの違法行為に基づく損害賠償を求めるものであり、権利の濫用と評価すべきである。

第五  抗弁に対する原告らの認否

一  被告A及び同Bの抗弁に対する認否

抗弁1は否認し、同2は争う。

二  被告C及び同Dの抗弁に対する認否

争う。

第六  被告Eについて

被告Eは、公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第七  証拠<省略>

理由

第一認定事実

一本件の事実経過

当事者間に争いのない事実、<書証番号略>、原告座馬隆明・原告小澤隆幸・被告C・被告D・被告B各本人、<書証番号略>によれば、以下の各事実を認めることができる。

1  訴外会社は、昭和五一年五月に設立された歯科機械・材料等の販売を業とする会社で、昭和五二年ころには既に歯科用の機械のリースのサプライヤー業務を行っていた。同社の役員は、A一族で占められ、いわゆる同族会社であった。

2  昭和五七年一月に、被告Cが訴外会社に入社した。同被告は、以前に保険の仕事をした経験があったことから、入社後は主としてリースや保険等の営業を担当していた。特に歯科医院が新規に開業する際の取引関係の開拓は、訴外会社の重要な営業活動であったが、被告Cは、これも担当し、入社後数年で営業部次長となった。

また、保険の業務は、訴外会社とは別法人である訴外愛知デンタルセンター(昭和六〇年一二月以降は日本デンタルセンター)が行っていたが、被告Eと被告Cは、その取締役でもあった。

3  訴外会社と原告座馬との歯科材料納入等の取引は昭和五八年五月に始まり、同年七月からは訴外会社と原告小澤との間で同様の取引が始まった。原告座馬の場合、材料の注文取りや納入は訴外中村や同長友が行い、被告Cは、専ら保険の勧誘を行っていた。また、原告小澤の場合、メインの取引先は訴外寺下歯科商店であり、訴外会社との取引額は原告座馬に比べると少額であったが、被告Cは、原告小澤に対しても保険の勧誘を行っていた。

4  被告Aは、昭和五九年ころから訴外会社の経営には実質的に関与しなくなり、被告Bと同Eがこれに当たるようになった。

ところが訴外会社の経営状態は、新規開業の歯科医師を顧客にすることのできた昭和五九年ころまでは順調であったが、昭和六〇年ころからは過当競争で売上げが減少したため、被告Aは、経営状態の改善を図るため、再度、訴外会社の経営に関与するようになり、外国から原価の安い商品を輸入しようとしたが、結局うまくいかず、昭和六〇年後半には、経営資金が約一〇〇〇万円ほど不足する状態となった。また、会社再建を図るに当って、被告Bは、歯科技工士の資格を有していることもあって、堅実な経営を目指していたのに対し、設立以来営業を担当していた被告Eは、多額の営業費を用いて顧客を開拓する積極的な経営を目指していたので、どちらの経営方針を採るかも問題となった。

そこで、昭和六一年一月にA一族の間で訴外会社の再建について協議した結果、被告A及び同Bは、訴外会社の経営から名実ともに退き代表取締役には被告Eが、取締役に被告Cが、新たに就任することとなった。

ただし、被告Aに対しては、訴外会社が同被告からの借入れがあったのでこれを返還する趣旨で、厚生年金が支給されるようになるまで同被告に役員報酬を支払い続けることとなり、また、被告Bは、昭和六一年二月から昭和六二年一月まで、歯科技工士として訴外会社に勤務することになった。

被告A及び同Bは、被告Eに対して、自分らの取締役退任を登記するように再三要求していたが、実際に退任の登記がなされたのは、昭和六一年五月であった。

5(一)  原告座馬は、昭和六一年一月中旬、被告E及び同Cの訪問を受け、被告Cから「被告Eが近々社長になるので売上げを伸ばしたい。一切迷惑はかけないし、節税にもなるからリース契約に名前を貸してほしい。書類を作るが形だけで何も心配することはない。もちろん、物件の引渡しはない。」等と告げられて、空リース契約の名義借りを頼まれ、これを承諾した。

なお、被告E及び同Cの両名は、空リース契約の本当の目的は訴外会社の資金調達にあり、空リースがリース会社に対する詐欺的行為に該当することは承知していた。

(二)  原告座馬は、昭和六一年二月二五日、被告E及び訴外日医リースの社員らの訪問を受け、被告Eらに指示されるままにリース契約の書類に署名押印した。この際のリース物件は、いずれも既に原告座馬が保有しているものばかりで、リースを行う必要はなかったし、被告Eも訴外日医リースの社員も契約内容について何らの説明もしなかった。しかし、原告座馬は、リース料を税務会計上損金として処理することができ税法上の利益を得られること、契約書等には物件が納入される旨記載されているが実際には納入のないこと、法律上はリース料の支払義務を自らが負担していること及びリース料が訴外会社から立替払いされることを理解していた。原告座馬は、その後、訴外日医リースに物件の借受証を送付し、訴外会社は、この後、リース会社から右物件の購入代金名下に約一一四〇万円を受領した。

(三)  右契約のリース料については、昭和六三年一月分までその二分の一が訴外会社から原告座馬の預金口座に送金され、残りの二分の一は被告Cによって原告座馬方に持参され、原告座馬は、この間のリース料の負担することはなかったが、同年二月以降右送金及び現金持参が中断してしまった。

なお、原告座馬は、右空リース契約締結に協力したことにつき、訴外会社から謝礼等を受け取ってはいない。

6(一)  原告小澤は、昭和六二年二月中旬、被告Cから電話で「実績を伸ばしたいのでリースをやってほしい。一切迷惑をかけず、節税にもなるし、名前だけの形式的なことで、もちろん物件を実際に納入することはない。」旨告げられて、リース契約の名義借りを頼まれ、これを承諾した。

被告E及び同Cの両名は、空リースがリース会社に対する詐欺的行為に該当することは十分承知していた。

(二)  原告小澤は、昭和六二年三月一三日、被告Cから「今日社長がリースの件で伺うのでよろしく。」との電話連絡を受け、その後一人で原告小澤方を訪問した被告Eから指示されるままに訴外三洋電機クレジットとのリース契約書に署名押印した。

(三)  原告小澤は、昭和六二年四月八日、訪れた被告E、同D及び訴外日立クレジットの社員らに指示され、訴外三洋電機クレジットの場合と同様に訴外日立クレジットとのリース契約書に署名押印した。

なお、被告Dは、昭和六二年一月に訴外会社に入社したばかりの一介の運転手にすぎず、原告小澤が署名押印した右契約がいわゆる空リースであることは全く知らなかった。

(四)  原告小澤は、昭和六二年四月一三日、被告E、同D及び訴外名古屋リースの社員の訪問を受け、被告Eらに指示されるままに訴外三洋電機クレジットの場合と同様に訴外名古屋リースとのリース契約書に署名押印した。

(五)  右(二)から(四)のリース契約の物件は、原告小澤には不要のものばかりであったが、いずれの契約の際にも契約内容の説明等はなされなかった。

しかし、原告小澤は、リース料を税務会計上損金として処理することができ税法上の利益を得られること、契約書等には物件が納入される旨記載されているが、実際には納入のないこと、法律上はリース料の支払義務を自らが負担していること及びリース料が訴外会社から立替払いされることを理解していた。

(六)  原告小澤は、右各契約の後、訴外三洋電機クレジット、同日立クレジット及び同名古屋リースに物件の借受証を送付した。訴外会社は、この後、各リース会社から右各物件の購入代金名下に合計約二〇〇〇万円を受領した。

(七)  右契約のリース料については、昭和六二年五月分までは被告Eから原告小澤方に持参され、同年六月分以降は、同被告から毎月のリース料に見合う額面の訴外会社振出の約束手形が交付され、その取立金がリース料の支払に当てられており、原告小澤がリース料を負担することはなかったけれども、昭和六三年二月分以降は右手形金の取立てができなくなった。

また、原告小澤は、右空リース契約締結に協力したことにつき、訴外会社から謝礼等は受け取っていない。

7  被告Cは、昭和六一年一月の訴外会社の経営陣の交替に伴って取締役に就任し、同年七月から一年間は訴外会社の経理を担当し、昭和六二年三月に債務者を訴外会社とする極度額二〇〇〇万円の根抵当権を自宅敷地に設定して訴外会社の資金繰りに協力したが、同年一〇月に被告Eとの意見対立を原因として訴外会社を退職した。

8  被告Eは、昭和六三年二月、原告座馬らの歯科医師からの借入金、訴外会社の歯科材料(八〇〇万円相当)や集金した売掛代金(二〇〇〇万円)等合計約五〇〇〇万円相当の財産を着服したままフィリピンに渡航してしまって日本に戻らず、このため、訴外会社の営業活動が不能に陥り、手形の決済資金も、不足してしまった。そこで、被告C及び同Dは、原告ら及び原告ら訴訟代理人である堀井敏彦弁護士と面談し、破産申立てをしてくれるよう依頼したが、話がまとまらず、結局、破産法一三三条所定の破産申立てをして、同年五月一六日に名古屋地方裁判所において破産宣告を受けた。

9  原告座馬は、昭和六三年四月以降の残存リース料の支払いについて訴外日医リースと裁判上の和解をなし、九八五万円を和解金として平成二年四月二四日に支払った外、昭和六三年二月及び三月分のリース料として四九万二八〇〇万円をも支払い、合計一〇三四万二八〇〇円を支払った。

10  原告小澤は、残存リース料の支払いについて訴外三洋電機クレジット、同日立クレジット及び同名古屋リースらと裁判上の和解をなし、訴外三洋電機クレジットには平成二年二月二二日に五五〇万円を、訴外日立クレジットには平成元年一二月一八日に二六六万円を、訴外名古屋リースには同年一月一九日に五五〇万円をそれぞれ和解金として支払い、合計一三六六万円を支払った。

二証拠判断<省略>

第二当裁判所の判断

一1 前示第一の一5及び6並びに同二1によれば、原告らは、本件空リース契約締結当時、空リース契約におけるユーザーの負担すべき義務を認識した上でリース会社に対する詐欺的行為である本件空リース契約締結に関与していたと認められるけれども、前示第一の一9及び10で認定した原告らの支払った和解金は、一応原告らの損害と評価することができるし、前示第一の一4から7で認定した本件空リース契約の目的や訴外会社の資金状態に照らすと、被告E及び同Cは、原告らに本件空リース契約を締結させた時点において、将来訴外会社が支払不能に陥った場合リース物件代金名下の金員騙取によって結果的に原告らに損害が発生することを認識していたものと推認することができる。

しかし、被告Dについては、前示第一の一6(三)で認定した事実に照らすと、原告らに右のような損害の発生することの認識はなかったものとみるを相当とする。

2 更に、前示第一の一4及び5で認定した事実に照らすと、原告座馬は、昭和六一年二月の空リース契約締結当時、被告A及び同Bが訴外会社の取締役を退任していたことを知っていたものと認めることができる。

3  そうとすると、原告らの本訴請求は、その余の点に判断をすすめるまでもなく、少くとも被告Dに対しては理由がなく、被告A及び同Bに対しても同被告らの抗弁1(未登記事項についての悪意)が認められるからやはり理由がないということができる。

二そこで、被告E及び同Cに対する請求について、更に検討をすすめることとする(被告Cは権利濫用の抗弁を主張しているが、右主張は民法七〇八条等に基づくいわゆるクリーンハンドの原則の主張をも包含するものと解する。)。

1 前示第一の認定事実のとおり、原告らは、本件空リース契約締結に際して、空リース契約によって得られる税務上の利益及びユーザーの負担すべきリース料支払義務を認識した上で、リース会社に対する関係で詐欺に該当する空リース契約の締結に協力し、訴外会社がリース会社から代金を受領するために不可欠な借受証の送付を行っていたのであるから、原告らが右空リース契約締結について訴外会社から謝礼を受け取ってはいないという事実を斟酌してもなお、自己及び訴外会社の利益のために、リース会社に対する欺罔的行為の一部を、それと知りながら担当したものといわざるを得ない。

2 そうすると、本件は、要するにリース会社に対する共同不法行為者間の求償問題であるということができるところ、共同不法行為者のうちの一部が、被害者に対して賠償をした場合に、これを他の共同不法行為者の自己に対する不法行為であるとして他の共同不法行為者に対して損害賠償請求をすることは、不法行為制度の趣旨や民法九〇条、七〇八条の精神に照らし、他の共同不法行為者の共同不法行為に対する関与の程度や不法の程度が右請求者のそれに比べて著しく重大であるとか、被害者が右請求者に対してのみ損害の顛補を求めるため、共同不法行為者間でなんらかの調整をしないと著しく不公平となる等特別の事情のある場合を除き、原則として許されないものと解するのが相当である。

3  そこで、これを本件についてみると、前示第一認定の事実によれば、被告E及び同Cが本件空リース契約締結を企て、契約締結に不可欠である歯科医師、即ち、原告らを勧誘し、リース会社に対する手続きを進行させるなど実行行為の大部分を行っていること、空リース契約締結の後、昭和六三年一月まではリース料を立替払いしてリース会社には損害が生じてはいなかったこと、被告E及び同Cは本件空リース契約によって得た金員を訴外会社の運用資金に使用したこと、しかしながら、被告Eが空リース契約によって保全された訴外会社の資金を着服逃亡したことが同社の倒産の直接の引き金となっており、ひいては原告らがリース料の実質的負担を余儀なくされた最大の要因であること、これに対し、被告Cの場合には、会社資産を着服したような事情は認められず、訴外会社の資金調達のため上司である被告Eに協力していたものであること、他方、原告らは勧誘を受けたという受動的な立場ではあるとはいえ、空リース契約締結によって訴外会社が代金の支払いを受けるのに必要不可欠な借受証を、リース物件の借受けの事実がないのにこれがあるかのように装って送付していること及び契約締結当時、空リースによる税法上の不当な利益を認識していたことが認められ、これらの事実を総合して検討すると、被告Eの本件空リースに対する関与の程度や不法の程度が原告らのそれに比べて著しく重大であると評価すべきことは当然であるが、被告Cの本件空リースに対する関与の程度や不法の程度が原告らのそれに比べて著しく重大であると直ちに評価することはできないというべきである。

そうであれば、原告らの被告Cに対する本訴請求は、その余の判断をまつまでもなく理由がないことになる。

4 そこで、続いて、被告Eの賠償すべき金額を考えるに本件における諸般の事情を総合検討すると、原告らがリース会社に支払った前示和解金の各二分の一とみるのが相当であると考えられるから、被告Eの賠償すべき金額は、原告座馬について五一七万一四〇〇円、原告小澤については六八三万円であることになる。

なお、原告らが本訴提起に当って負担した弁護士費用は原告座馬については二〇万円、原告小澤については三〇万円の各限度で本件と相当因果関係のある原告らの損害とみるを相当とする。

三以上のとおりであるから、原告座馬の本件請求は、被告Eに対する、五三七万一四〇〇円及びこれに対する訴外日医リースへの和解金の支払いの日である平成二年四月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり、原告小澤の本件請求は、被告Eに対する、七一三万円並びに内二七五万円に対する訴外名古屋リースへの和解金の支払いの日である平成元年一月一九日から、内一三三万円に対する訴外日立クレジットへの和解金の支払いの日である平成元年一二月一八日から、及び内三〇五万円(弁護士費用を含む)に対する訴外三菱電機クレジットへの和解金の支払いの日である平成二年二月二二日からいずれも支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、いずれも右限度でこれらを認容し、その余の原告らの請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文及び九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大橋英夫 裁判官夏目明德 裁判官野村朗)

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